大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1701号 判決

反訴原告

三木くに子

反訴被告

株式会社オリエンタルホテル

ほか一名

主文

一  反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、金二四二万一二五二円及びこれに対する平成四年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告らは、各自、反訴原告に対し、一六二七万三三二一円及びこれに対する平成四年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害及び物的損害を受けた反訴原告が、反訴被告阪口秀貴(以下「反訴被告阪口」という。)に対し民法七〇九条により、反訴被告株式会社オリエンタルホテル(以下「反訴被告会社」という。)に対し自賠法三条及び民法七一五条によりそれぞれ損害賠償を求めた事案である。

なお、付帯請求は、本件事故が発生した日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年四月二四日午後三時五〇分頃

(二) 場所 神戸市垂水区北舞子四丁目一〇先市道(以下「本件道路」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(神戸四五ゆ六八六三)

運転者 反訴被告阪口

所有者 反訴被告会社

(四) 被害車 第一種原動機付自転車(神戸垂ね五五〇九)

運転者 反訴原告

(五) 態様 路外から北進して本件道路に進入した加害車と西進中の被害車が出会頭に衝突した。

2  責任原因

(一) 反訴被告阪口は、左右道路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件道路に進入した過失があるから、民法七〇九条により反訴原告が受けた後記損害を賠償する責任がある。

(二) 反訴被告会社は、本件事故当時、被告車の保有者であり、反訴被告阪口の使用者であつたところ、同被告が同会社の業務に従事中であつたから、自賠法三条及び民法七一五条により後記損害を賠償する責任がある。

3  反訴原告の受傷

反訴原告は、本件事故により頭部外傷Ⅱ型、胸部・右上肢・眼球各打撲、肺・顔面各挫創、頸髄不全損傷の傷害を受けた。

二  争点

1  反訴原告の受傷の程度及び相当な治療内容・期間

2  過失相殺

3  反訴原告の損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲二ないし四の各一・二、五の一ないし三、六ないし一三の各一・二、一四の一ないし三、一五、一六ないし一八の各一・二、一九、二一、二四、乙六、一〇の一ないし七、一一、一二の一ないし三、一六ないし一八、反訴原告本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告は、本件事故前の平成三年一二月一三日、別の交通事故により右頸、肩等に痛みがあり、整形外科に通院していたが、平成四年四月初め頃には痛みもなくなり、治療も打ち切られる予定であつた。

(二) 反訴原告は、本件事故による受傷の治療のため、同事故当日の平成四年四月二四日から同年七月二六日まで舞子台病院に入院した。

反訴原告は、頭部外傷がひどかつたため外科で治療がなされたが、その他、左半身の知覚鈍麻、筋力低下、第三、第四頸椎部左側圧痛等があつた。そのため、担当医師は、末梢神経ではなく、頸髄の神経あたりに損傷があると推測したが、頭部のCT検査や深部腱反射の検査で異常がなく、頸髄不全損傷と診断された。

(三) 反訴原告は、平成四年四月二八日、伊藤耳鼻咽喉科医院に通院し、同日から同年九月三〇日まで富森眼科に通院した(実通院日数七日間)。

(四) 反訴原告は、舞子台病院に同年七月二七日から平成五年九月一一日まで通院して中止し、その後平成七年七月一日から再び通院し出した(同年一〇月二三日までの実通院日数五三日)。

(五) 反訴原告は、痺れ、耳鳴り、左半身の痛み等の感覚異常等が続いていたため、平成四年七月二九日から舞子鍼灸院に通院しはじめ、当初は隔日、その後週三回、その後週一、二回の割合で通院を続けた(一回約七〇〇〇円の治療費で合計三八五万円程度の支払)。反訴原告は、反訴被告会社が付保していた任意保険会社に対し、同院に通院する旨伝えており、平成七年三月頃までは右治療を中止するようにとは言われず、同会社に直接その治療費を支払つてもらつていた。

(六) 反訴原告は、平成四年九月頃から家事の一部をすることができるようになり、同年暮れ頃からほぼ従前どおり家族の食事を作るようになつた。

そして、反訴原告は、平成七年三月末頃から、従前の工員としての仕事に復帰することができた。

(七) 反訴原告は、平成七年一〇月三〇日、症状固定したとの診断を受け、両下腿、頸部、肩、背部及び腰部に冷気が当たると冷感がひどくて痛み、感覚がなくなるなどの後遺症状が残つたとの自賠責保険後遺障害認定診断書を作成してもらい、自賠責保険の後遺障害保険金の請求をした。しかし、事故直後の対症療法施行の結果、種々の症状も徐徐に軽快し、その間の特段の所見に乏しく、事故態様からも過伸展、過屈曲傷害と捉えることが困難であり、画像所見から外傷に伴う器質的疾患が捉えられないことなどから、他覚的に捉えていくことができず、心因性の自律神経失調症と考えられ、後遺障害とは捉えられないということで、非該当であると判断され、その支払が認められなかつた。

2  右認定によると、反訴原告の本件事故による傷害は、頸髄不全損傷等の相当の傷害であり、舞子台病院への通院を中止した平成五年九月当時に相当回復したものの、完治していたとまではいえず、その後の鍼灸治療等もあつて平成七年一〇月当時には完全に固定し、自覚症状は多少残つたが、他覚症状とは捉えられず、後遺障害は残らなかつたとみるのが相当である。

二  争点2について

1  証拠(乙一三、反訴原告本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 反訴原告は、本件事故直前、被害車を運転し、時速約二〇キロメートルの速度で本件道路を西進し、左側に駐車車両が数台続いており、左方の見通しが悪かつたものの、反訴被告阪口運転の加害車が左方の路外から本件道路に進入して来るのを発見したが、当然に同車が被害車の通過を待つてくれると考え、そのまま進行した。しかし、加害車が停止しないで進入を続けて来たため、反訴原告は、直前で急ブレーキをかけたが及ばず、被害車の前部と加害車の右前角が衝突した。

(二) 反訴被告阪口は、本件事故直前、加害車を運転し、本件道路の南の路外から本件道路に進入し、右折しようとした。同被告は、駐車車両の間から自動車が西進して通過するのを確認してから、時速四、五キロメートルの速度で北進し、右折しようとしたところ、三・二メートル右前方に被害車を発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、〇・八メートル前進して二メートル前進してきた被害車に衝突させた。

2  右認定によると、反訴原告は、本件道路に進入しようとする加害車を発見したのであるから、同車の動静注視及び安全確認をする義務があるところ、同車が自車に進路を譲つてくれると考え、その義務を怠つたというべきであるから、多少の過失はあるといわざるをえない。

他方、反訴被告阪口は、路外施設から本件道路に進出し、右折東進するに当たり、折から右道路に進出する地点の右側道路南端に駐車車両があるため右方の見通しが悪かつたから、見通しのきく地点で一時停止し、右方道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、右駐車車両の前面で一時停止せず、低速であつたものの、右方の交通の安全を確認しないまま進行したのであるから、その過失は誠に大きいというべきである。

その他、本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、反訴原告と反訴被告阪口の過失を対比すると、その割合は、反訴原告が一〇パーセント、反訴被告阪口が九〇パーセントとみるのが相当である。

三  争点3について

1  治療費及び文書料(請求額・四二六万九四六六円) 一六七万四一五二円

前記一掲記の各証拠によると、反訴原告の舞子台病院の治療費は三八万八七六六円(甲二ないし一三の各二)、伊藤耳鼻咽喉科医院の治療費は三〇三〇円(甲一五)、富森眼科の治療費は三万四一一〇円(甲一四の一ないし三、一六・一七の各二、一八)、舞子鍼灸院の治療費及び文書料は三八五万一〇〇〇円(平成七年三月三一日までの分が三二三万二〇〇〇円〔争いない〕、同年四月一日から同年一〇月二一日までの分が六一万九〇〇〇円〔乙一一〕)であること、ただし、反訴被告らは、反訴原告の舞子台病院の全治療費として減額してもらつて三五万三三四六円を支払つたことが認められる。

右認定によると、伊藤耳鼻咽喉科医院及び富森眼科の治療費はそのまま相当な治療費というべきであるが、舞子台病院の相当な治療費は、反訴被告らが支払つた三五万三三四六円というべきである。

また、前記認定によると、舞子鍼灸院における治療が反訴原告の種々の症状を軽快させたことはうかがわれるが、その治療内容、期間、治療費等を考慮のうえ、同院の右治療費の三分の一である一二八万三六六六円(円未満切捨、以下同)を相当な治療費とみることとする。

2  入院雑費(請求及び認容額・一二万二二〇〇円)

反訴原告が入院一日当たり一三〇〇円として九四日分の入院雑費を要したことは、当事者間に争いがない。

3  付添看護費(請求額・三九万一五七八円) 三七万五〇八八円

証拠(甲二〇の一ないし四、二二、二三の一・二、弁論の全趣旨)によると、反訴原告は、舞子台病院入院中、職業付添看護婦を依頼し、その諸費用として合計三七万五〇八八円を要したことが認められる。

右認定によると、右は相当な損害として認めることができる。

4  通院交通費(請求及び認容額・二万〇三八〇円)

証拠(甲二三の一・二、弁論の全趣旨)によると、反訴原告は、本件事故による受傷の治療のため、少なくとも通院交通費として二万〇三八〇円を要したことが認められる。

5  休業損害(請求額・五六八万九六二〇円) 二九〇万八九三一円

証拠(乙三、四、反訴原告本人、弁論の全趣旨)によると、反訴原告は、本件事故当時、五〇歳の女性であり、エム・アイ精機株式会社の工員(パートタイマー)をし、年額八八万六六一五円の給与を得ていた他、家庭の主婦として家事労働に従事していたこと、反訴原告は、退院後の平成四年七月頃から徐徐に家事労働に従事したが、事故による痛みがとれなかつたため、なかなか工員としての仕事に復帰できず、平成七年三月頃にやつと復帰したことが認められる。

右認定及び前記の反訴原告の受傷の内容、程度、治療内容等によると、反訴原告は、本件事故により、本件事故後の入院期間の九四日間は一〇〇パーセント、その後の舞子台病院に通院期間の約三か月間は五〇パーセント、その後の平成四年一〇月頃から反訴原告が仕事に復帰した平成七年三月頃までの約三〇か月間は二〇パーセントをそれぞれ相当な休業期間、程度とみるのが相当である。

また、右認定によると、反訴原告は、本件事故当時、工員として年額八八万六六一五円の給与を得ていた他、家事労働に従事していたから、反訴原告は、平成四年度賃金センサスによる五〇歳女性の平均賃金三二九万六一〇〇円の収入を得ていたとみるのが相当である。

そうすると、反訴原告の休業損害は、次の計算式のとおり二九〇万八九二一円となる。

3,296,100×(94÷365+3÷2÷12+30÷5÷12)=2,908,921

6  逸失利益(請求額・四九三万五二七一円) 〇円

反訴原告に後遺障害が残つたことを認めることができないことは前記認定のとおりであるうえ、前記の反訴原告の受傷内容、程度及び固定時の症状等を考慮しても、反訴原告に後遺障害による逸失利益を認めることは相当でない。

なお、反訴原告は、自賠法施行令二条後遺障害別等級表一二級一二号に該当する後遺障害が残つた旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

但し、反訴原告の右諸症状を考慮し、慰謝料の一事由として斟酌することとする。

7  慰謝料(請求額・四五〇万円) 三〇〇万円

反訴原告の受傷内容、程度、入通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を考慮すると、その慰謝料としては三〇〇万円が相当である。

8  原動機付自転車修理代(請求及び認容額・一〇万三一〇三円)

証拠(乙一、弁論の全趣旨)によると、本件事故により被害車が破損し、その修理費代として一〇万三一〇三円を要したことが認められる。

9  眼鏡購入費(請求及び認容額・三万九一九一円)

証拠(乙二、弁論の全趣旨)によると、本件事故により反訴原告の眼鏡が破損し、反訴原告は、新たに眼鏡を三万九一九一円で購入したことが認められる。

眼鏡には代替性がないから、右認定の眼鏡の購入費は相当な損害とみるのが相当である。

10  小計 八二四万三〇四五円

11  過失相殺

本件事故につき、反訴原告に一〇パーセントの過失のあることは前記のとおりであるから、前記損害合計額の一〇パーセントを減ずると、その後に請求できる金額は七四一万八七四〇円となる。

12  損害の填補

本件事故に関して五一九万七四八八円の損害の填補を受けたことは当事者間に争いがない。

そこで、その控除後に反訴原告が請求できる金額は二二二万一二五二円となる。

13  弁護士費用(請求額・一四〇万円) 二〇万円

本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇万円とみるのが相当である。

第四結論

以上のとおり、反訴原告の請求は、主文第一項の限度で理由があるから、その範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例